治療した歯がうずく ご相談メールより

メール相談をいただく事が多くなってきまして、
先日も以下のご相談がありました。
患者様が少しでもご理解される一助として、掲載します。
 
 
(相談内容抜粋)
数年前に治療したブリッジ(1つ歯が欠損になり両隣を連結した被せ物)を装着していて、その土台の歯の歯肉あたりが疼くような感覚が強くなってきています。数件、歯科医院に行って見てもらったが、どこの病院も、これと言って決断にいたることを言ってもらえません。設備的にも無理なのかとと思ってしまっています。保険診療内ですべて行い、またブリッジにしてもらいたいが、可能でしょうか?
 
という主旨のご相談をいただきました。 似たようなご相談が多いので、ご参考になればと思いまして、私の回答を掲載させていただきます。
 
(私の回答)
この度は、小院にご相談のメールいただき、折り返しが遅くなり申し訳ありませんでした。
双葉デンタルクリニック 院長の井島喜弘です。
 
→数年前に治療した歯の歯茎の疼き だんだん強くなっている
とのことですが、私が△△様よりいただいた文面からわかる範囲(画像検査やその他のお口の情報がない状態)での、私の考えを申し上げます。
 
① パノラマ、デンタルといって保険で採用できるレントゲン検査の正確性(情報がわかる範囲)は約40%程度と言われています。
② CT検査は①の検査後に、行える検査ですが、それでも80%程度の情報しかないと言われています。また、場合によってはCT撮影は保険適用外の検査となり自由診療になることもあります。
③ あとは画像、問診、診る、触る、他のお口の環境や、食事の状態、嗜好品、職場や家庭環境など様々な問診、諸検査から総合的に判断し、特に外部からの情報を分析して、診断に至ります。保険診療内で行う画像検査だけでわかることには、特にレントゲンの情報の特性からもわかるように限りがあるということです。
④ 数件病院を行かれて、検査していただき、別の数人のドクターが拝見しても、なかなか診断がつかない場合は、典型的な状態(例えば、根尖性歯周組織炎:ペルといいます)である可能性が低いということです。つまり症状にみあうだけの所見が乏しいということになります。
⑤ 他に考えられることは、「歯ではない」ということです。非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)といいます。歯の痛みを認知する神経とそれ以外の神経が交差、錯誤し歯の痛みと捉える疾患で、実際に「歯が痛い」のですが、司っている神経伝達経路が違うということがあります。一例として、「触覚」が「痛覚」に置き換わってしまう状態があります。
⑥ この⑤の場合、鈍い痛みがじんわりつづく(噛まなくても) ことが特徴で、患者さん自身が「この歯が痛い!」と明らかに特定できないことが特徴です。
⑦ この⑤であるかどうかの診断には、設備ではなくそのような事があると歯科医師が認知していることや、その経験に基づく熟慮やより専門的な知識と理解が必要になります(内科のなかでも、代謝分泌内科や神経内科、心療内科など様々に分かれているのと同じように、歯科の中でも、実際には、かなりの専門的分野(必ずしも専門医とは限りません)が存在します)
⑧また、⑤ではなかった場合には、ブリッジの土台になっている歯のとのことから、ブリッジにして7年以上経っていれば、画像に映らないほどの内部でのクラック(爪をみていただければわかると思いますが、かなり縦の亀裂線が入っていると思います)といって、表層部の傷ができた状態を言いますが(中には内部まで入っている大きな亀裂もありますが、保険で行うレントゲン検査には写りません)、今にも歯が割れてしみそうな状態を疑います(まだ、割れていないか、破折が深くない、深くても連結されているので、わかりにくい状態など)。長い時間(学術的には7年以上と言われます)、あるいは短期間でも過負担が起きると、当然、違和感や痛みが生じることがあります。例えば、高いところから飛び降りて、足がジーンと痛くなることがあると思いますが、それは、痛いからといって病気ではないように、重いものを持って、腰が痛くなるように、歩きすぎて足が痛くなるように、人の体はこれ以上使うと壊れていますという知らせを「痛み」や「違和感」として病気の時と同じ信号(神経伝達系、神経繊維)で知らせます。特に歯や歯周組織の場合は、すべて「痛み」として伝える神経が豊富(細くて伝達速度が早い神経繊維)でそのような状態になることがしばしば見られます。そもそも歯は感覚受容器でありながら、物理的な力を受けながらもそれに拮抗して機能する器官でもあります(かなり特殊な装置?です)。
⑨歯の治療の段階(順番)ですが、小さな虫歯を取る(削る)→詰める→かぶせる→神経を取る→抜歯という症状に応じて治療段階があります。痛みをとるためには、抜歯という立派な治療方法があります。神経を取った歯が、ご自身の「噛む」や日常的に使う使い方に過度な反応が出る場合は、歯の質がその外力に耐えられないという状態であることを意味します。その反応がでないようにするには、二つあります。①それ以上の力を加えないように食べ物を制限します。ブリッジでしたら健常な20歳の方の歯を100とすると、約60%ぐらいに軽減させて、大きさや、硬さ、に調整した食べ物に変えることが必要です。昔(治した時)はなんでもなかった。という患者さんが非常に多いのですが、新築の家、築5年の家、築10年の家、築30年の家、車で考えてもいいですが、その時々に応じて、屋根だけ変えて、新築の家のように構造的にもとの状態にもどった(新築になった)とは思えないことを理解していただきたいです。つまり、ご自身の屋根を支えている、ハリや柱が傷んでいたら、保険でも自費でも、お金をかけても、かけなくても、その外力を支えきれない状態であったならば、どの選択(かぶせものなど)をとっても大きく変わりません。
⑩一方、根菅治療は、例えば家に虫がわいてしまって、バルサンのような殺虫剤で虫退治をしているような治療です。ですので、虫が一匹もいない、A:新築の家 B:築30年の家 ではどちらが強いでしょうか? AもBも強度からすると同じではないことがお分かりになっていただけると思います。中がどんなに綺麗でも構造的な強度を与える治療ではないということです。つまり、細菌をなくす=強くする ではないのです。ただ、年数をかけて使いますので、内部から腐食、腐敗していく病気ですので、その駆除する効率や方法、駆除率がより高くできる治療やより最小限での傷(除去)で済む方法が、顕微鏡を使った根菅治療という位置付けになります。現在では、その時に使う材料が保険適用外のものもあったり、新品の鋭利な器具でないと効率が悪くなるため一回の治療に必要な機材を全て新品、あるいは同等のものを使用すると数千円以上かかり、とても補填される保険診療費では揃えられませんので、医院によっては自由診療になっています(当院でも自費治療です)。ですから、根管治療は歯を中から削る治療ですので、歯の神経を取る治療をされるということは、多かれ少なかれ、すでに歯を少しづつ削り取られている状態で、結果的に感染源(感染した歯質)を取ったため、脆くなっています。ですから、根管治療が今回で何回目の治療になっている歯かどうか(何年前やその時の病気の大きさや治療の状態)によって、その予後は大きく変わってきます。また、その歯しか使えない状態(健全歯:治療をしていない健康な歯がどれだけ他に残っているか)などであれば、尚更予後は悪くなります。根菅治療をした歯は、病気は可能なかぎり排除されている状態であるが、古い大きな傷を抱えた体、足、手、歯も、どんな組織も「強くない」ので、前の状態より労わりながら使用しなければ、様々な障害や体の限界を発する信号を脳に伝えられていくことが多く、強く(頻度も度合いも)なっていくのは当然です。古い歯(ご年齢と治療痕の有無)にはバイ菌がいるよ!ではなく、壊れちゃうよ!という知らせが多くなります。スポーツ選手が大きな怪我や手術から強靭な努力によって回復し、前よりもいい成績を収めることができるのは、まれ中のまれです。その調整期間中も、体はどんどん老化しているでのす。ですから、お友達の自由診療で根の治療をした=長持ちする では根本的にお考えが違うことを申し上げなければなりません。ファーストクラスに乗ったから、行き先がかわることも到着時間がかわることもありません。高いお金を払った=長くもつ という考えは、お気持ちはわかりますが、非常に危険です。逆にいうと自由診療で良い治療を受けていなかったら、3日と持たなかったかもしれません。それでも、「同じ時間過ごすなら、より快適な状態で過ごしたい」というお考えがある場合、その事に対しての対価として支払われる金額は通常よりも高くなることは、ご理解いただけると思います。また、同じものでも、そもそもの材料や開発、その他多くの理由で金額が高いということがあります。似たようなものがあれば、完全な違いを理解するには、ある程度の知識が必要になると思いますが、一般的には何となく理解し、実際あとは経験してから感じることで評価すると思います。ただ、100円の腕時計と1000万円の腕時計は、明らかな違いがわかりやすいという例え話があります。つけごごちや見た目のことを言っていると思いますが、だからと言って1000万円の時計をつけると1日が25時間になる(感じる)とか、実際に長くなることはなく、時間を刻むということには、何ら変わりがないと思います。つまり、高額な治療(材料費なのか治療費なのかは明らかにできます)を受けた場合、かならず延命されるわけではないということです。材料としてプラスチックとセラミックでは、原価も質も全てが違いますが、腕時計ぐらい大きければ、その違いが非常に感じやすいと思いますが、わずか数ミリのものなので、非常にその違いを感じづらいのが、歯科の悩ましいところです。実際は先生が言うなら。。。という事に一任するか、すでに長い時間をかけてなんとなく実感しているからと思います。ただ明らかなのは、材料的に良いものを使った場合、長くもたない歯にどんな材料を使っても、長持ちする、もとの歯のように噛めることを目的にしていないので、結果は大きく変わりがないことになります。が、それでも、わずかな期間でも構わないという方もいらっしゃいます。
11)歯科は、材料学と接着学という学問の上になりたっています。ですから、よりよい材料、よりよい接着剤を駆使(自費診療)すれば、より良い最大限の結果が得られやすいですが、素材(歯の質や経年的な老化(細胞組織の老朽化)が悪く、弾性や応力に対する抵抗性が劣化していれば、その材料、接着力は十分に発揮されません。どんなにいい肥料を使っても土壌が悪ければ、結果として成る実の質も味も変わってきます。
12)保険診療でも、ブリッジを入れたら数万円したとのことですが、金属の被せ物(保険のクラウン)の保険の値段は1本あたり、現在約6000円以上します。ブリッジですと3個つくります(つながった状態で)ので、6000円かける3個で約18000円します。治療費は大雑把に言うと、その半分ですので、削って(治療費)かぶせる(被せ物の値段)を合わせると概ね、保険診療でも2万円以上はします(保険点数は公開されていますのです、詳細をお調べしていただくと良いと思います。
13)最後に→私は、どの歯のどの部分が悪いのかをキチンと知りたいです。そして、保険適用範囲内で、治療して頂ける事を希望します
とのことですが、「歯が疼く」=歯が疼かないようにする治療 を希望しるということは、前述の①の方法以外に、診断した結果ですが、これは原因に対しての治療になりますので、、ある病院で先生がおっしゃられているように、「歯の抜歯」もきちんとした保険で行う原因に対する治療方法です。歯を抜歯しなければ、疼くことが止められない状態であれば、正解は抜歯です。ですが、、少し語弊があるように捉えられてしまうかもしれませんが、先ほどの神経を取って治らなければ(実際は治っているのでなく、その症状をなくし、あるいは軽減するための修復といいますので、他の疾患で言う「完治」にはなりません)、保険診療では次のステップは「抜歯」になります。その場合は、感染源を完全に取ったという意味では、「完治」になります。組織を修復させ、症状を軽減する(症状固定)事が根菅治療である(修復機転が働けば治癒になります)ならば、確実な完治を望むのであれば、「抜歯」です。つまり、完治をめざすなら「抜歯」、治癒をめざすなら「根菅治療も含めた抜歯以外の処置」になると思います。治癒は、症状(病態)が再発することがある状態を意味しています。今回、根の治療が選択できないのは上述いたしました(治療段階での話)ので、抜歯の適応の段階にきていると判断できます。日本国民全員が同質で平均的な治療を平等に受けられるよにと設定されているのが、保険診療のいいところですので、より良い治療(より良い診断の上に成り立ちます)を受けたいと思う方には、今の歯科診療報酬という診療費(費用)の中で行う制度では限界があるので、受けるべきではないと思います。つまり、患者さんの要望が保険診療で容認される範囲を超えている事が多いのも最近の傾向にありますので、私たちの悩ましいところでもあります(その違いを説明するとおそらく診療時間がなくなります。説明に時間をかけて、さらに治療も丁寧に、緻密にやってもらいたいと思うことは誰しもそうかもしれませんが、その時点で保険診療の考えを逸脱してしまっているかもしれません。ただ、今の患者さんのニーズのほとんどが、そのような方が増えてきているのを感じますが、正直、お応えできないので、より良い治療を受けたい方への自由診療が存在しています)。「普通」に受けたいのであれば、どこの病院に行かれても同じようなことであるならば、それが「普通」つまり一般的と捉える方が気持ちが楽になると思います。普通の状態ではない段階かもしれないので、次の選択肢は通常通りのもの(保険診療)ではなく、自由診療(制限のない徹底した検査や診断方法)を選択へ考えをシフトすることも必要かと思います。その結果、すべてが自費になることとは限りませんので、ご安心ください。
 
 最後に、抜歯もしたくなく、今ままでと変わらないブリッジの状態にもどす と言うのは、時をももどす(もどして欲しい)ことを意味しているかもしれません。確かに人の根底にある願望かもしれませんが、実際は「継時的な変化」に対応するには、「正しく受容する」ことだと思っております。
 
いろいろご心配なことがある中で思い切ってのご相談だったと思いますが、これが私の考えになります。
 
 アドバイスとしては、今この状況の中でできることとして、今よりも、もっと食べ物を小さくて、やわらかいものを食することを心がけ(硬いものは反対側で!というのもしてはなりません)、身体の状態がエイジングしていくように、歯も同じで、その身体の縮図と考えていただきまして、一回でも治療(体でいったら手術後になります)という人の手が介入してしまった状態の歯であれば、尚のこと脆弱性が増している状態であることをご理解していただき、大事に使っていただくことも大切かと思います。故障はしていても、まだ使えるというものがあります。
 
長々なご説明になってしまいましたが、ご理解の一助になれば幸いであります。宜しくお願い申し上げます。
 

 

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